27 エントロピック重力/創発的重力 #重力 #宇宙
27-1 概要
○エントロピック重力(Entropic gravity)または創発的重力(emergent gravity)は、現代物理学の理論であり、重力をエントロピックな力として記述する。[1]
○エントロピック重力理論は、2010年にアムステルダム大学の理論物理学者エリック・ヴァーリンデ教授が発表した重力についての新理論。重力とは「電磁気力」「強い力」「弱い力」と並ぶ自然の基本的な力ではなく、実は「見かけの現象」に過ぎないとする理論。[2]
○エントロピック重力理論では、重力とは「物体の位置に関する情報量の変化によって生じるエントロピー的な力である」と説明される。物体の位置が変動することによって、情報量としてのエントロピーが変化し、この変化が重力という形を取って現れるという。つまり、重力とは、エントロピー変化にともなう見かけ上の現象ということになる。[2]
○この理論では、重力が星間距離のような弱いレベルになると、その強度は質量からの距離と共に直線的に減衰しするとしている。[3]
○この理論に立つとダークマターを想定しなくてもよくなる。[2]
○理論の検証のための研究と実験が行われている。
27-2 熱力学とニュートンの法則
・・・2010年のエリック・ヴァーリンデの論文を元に [4]
○重力は弦理論である程度解明されているが、量子力学との相性が悪い。
○重力は微視的な理論よりもエントロピーとの相関が強い。
○時空と重力の出現の背後にある概念は一般的で、アンチ・ド・シッター空間での原則が、私たちの宇宙であるド・シッター空間にも適用可能である。
○時空と重力をブラックホール熱力学の法則から考える時、中心となるのは、ブラックホールのエントロピーを与えるBekenstein-Hawkingの公式とホーキング温度。
ここでAはブラックホールの事象の地平線(horizon)の表面積、κは表面加速度
○通常の物質の熱力学では、エントロピーは体積に比例するが、ブラックホールでは表面積に比例する。→ホログラフィック原理
※Bekenstein-Hawkingの公式は何次元の重力理論においても成り立ち、Gはその次元でのニュートン定数。
○次のように、熱力学の法則からニュートンの法則を得ることができる。
(1)粒子とエントロピー
質量mの粒子が、あるスクリーンに近づけば、スクリーン上のエントロピー変化∆Sは、ベッケンシュタインによれば、
kB はボルツマン定数
※エントロピー:
1) 熱力学(熱を扱う物理学の一領域)では、エントロピーは物質とエネルギーの物理系における"無秩序"の尺度。
2) 対象とする系がとりうる状態の数がどのくらいあるかを表す物理量。
∆xがコンプトン波長程度に近づいた場合は、
すなわち、質量mおよび変位Δxに比例してスクリーンに垂直なエントロピー変化が存在する。
図:ホログラフィックスクリーンへの粒子の接近
※コンプトン波長:粒子の質量を長さとして表した物理定数。
※電子のコンプトン波長: λe=2.42×10-12 m
(2)エントロピー力
どのように力が出現するのか?
力が働くと加速度が生じるが、それは温度とエントロピーとして観測される。
FΔx=T∆S (熱力学第1法則)
(3)ホログラフィック原理
ここでスクリーンが球面とすると、ホログラフィック原理( holographic principle)により、スクリーン内の状態数(情報量:N)は面積に比例する。
※球面ホログラフィックスクリーン
A:球の表面積
c は光速、ℏ は Planck 定数
※ホログラフィック原理:空間の情報はその境界面に符号化されていると見なすことができるという超弦理論の分野で発見された考え方。
・例えば、ブラックホールのエントロピーはその表面積に比例する。
・ホログラフィック原理は 「量子もつれ(量子エンタングルメント)」という量子論の基本的な性質と深く関係している。
(4)エネルギーと状態数(情報量)
・この球面ホログラフィックスクリーン内に総エネルギーEが存在すると仮定する。
・また、エネルギーが境界内の状態数N(ビット)に均等に分割される(エネルギー等分配則という仮定をすると、
エネルギーEは、質量Mがmより十分大きい場合、質量Mに比例する。
T は絶対温度
※仮に厳密にエネルギー等分配則に従わなくてもこの関係は真実の可能性がある。
(1)から(4)の式を解くと、ニュートンの法則を得る。
○この論文の結果は、時空間が出現すると、エントロピー力として重力が生じることを示唆している。
The results of this paper suggest gravity arises as an entropic force, once space and time themselves have emerged.
○また、加速と重力の等価原理も成り立つ。つまり、加速と重力の両方が創発現象である。
○さらに、ニュートンの法則を一般化したアインシュタイン方程式を得ることが出来る。[5]
○結 論
・重力は基本的な力ではない。時空間が出現すると、エントロピー力として重力が生じる。
・なお、赤方偏移がエントロピー勾配から生じるという考えは、多くの新しい洞察につながる可能性がある。
【参 照】
1.エントロピック重力-Wikipedia
2.“ダークマター存在せず? - 「エントロピック重力理論」と観測データが一致2-“荒井聡
at マイナビニュース 2016/12/22
http://news.mynavi.jp/news/2016/12/22/230/
3.Entropic gravity-Wikipedia
4.Erik Verlinde “On the Origin of Gravity and the Laws of Newton(重力の起源とニュートンの法則)“ 20100106
https://arxiv.org/pdf/1001.0785.pdf
5.T. Jacobson, \Thermodynamics of space-time: The Einstein equation of state,"
Phys. Rev. Lett. 75, 1260 (1995)
【その他の参照】
6.太田 信義“重力理論と熱力学”2010
https://www.jstage.jst.go.jp/article/soken/118/3/118_KJ00006772515/_article/-char/ja/
7.百武慶文“重力は基本的な力か!? E. Verlindeの仕事の紹介”
http://www-tap.scphys.kyoto-u.ac.jp/sc3/hyakutake.pdf
8. Masahiro Hotta”エントロピック重力理論” at Quantum Universe 20161225
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2016/12/25/092822
【更新履歴】
20171111 新規
20171209 「熱力学とニュートンの法則」の追加
27-1 概要
○エントロピック重力(Entropic gravity)または創発的重力(emergent gravity)は、現代物理学の理論であり、重力をエントロピックな力として記述する。[1]
○エントロピック重力理論は、2010年にアムステルダム大学の理論物理学者エリック・ヴァーリンデ教授が発表した重力についての新理論。重力とは「電磁気力」「強い力」「弱い力」と並ぶ自然の基本的な力ではなく、実は「見かけの現象」に過ぎないとする理論。[2]
○エントロピック重力理論では、重力とは「物体の位置に関する情報量の変化によって生じるエントロピー的な力である」と説明される。物体の位置が変動することによって、情報量としてのエントロピーが変化し、この変化が重力という形を取って現れるという。つまり、重力とは、エントロピー変化にともなう見かけ上の現象ということになる。[2]
○この理論では、重力が星間距離のような弱いレベルになると、その強度は質量からの距離と共に直線的に減衰しするとしている。[3]
○この理論に立つとダークマターを想定しなくてもよくなる。[2]
○理論の検証のための研究と実験が行われている。
27-2 熱力学とニュートンの法則
・・・2010年のエリック・ヴァーリンデの論文を元に [4]
○重力は弦理論である程度解明されているが、量子力学との相性が悪い。
○重力は微視的な理論よりもエントロピーとの相関が強い。
○時空と重力の出現の背後にある概念は一般的で、アンチ・ド・シッター空間での原則が、私たちの宇宙であるド・シッター空間にも適用可能である。
○時空と重力をブラックホール熱力学の法則から考える時、中心となるのは、ブラックホールのエントロピーを与えるBekenstein-Hawkingの公式とホーキング温度。
ここでAはブラックホールの事象の地平線(horizon)の表面積、κは表面加速度
○通常の物質の熱力学では、エントロピーは体積に比例するが、ブラックホールでは表面積に比例する。→ホログラフィック原理
※Bekenstein-Hawkingの公式は何次元の重力理論においても成り立ち、Gはその次元でのニュートン定数。
○次のように、熱力学の法則からニュートンの法則を得ることができる。
(1)粒子とエントロピー
質量mの粒子が、あるスクリーンに近づけば、スクリーン上のエントロピー変化∆Sは、ベッケンシュタインによれば、
kB はボルツマン定数
※エントロピー:
1) 熱力学(熱を扱う物理学の一領域)では、エントロピーは物質とエネルギーの物理系における"無秩序"の尺度。
2) 対象とする系がとりうる状態の数がどのくらいあるかを表す物理量。
∆xがコンプトン波長程度に近づいた場合は、
すなわち、質量mおよび変位Δxに比例してスクリーンに垂直なエントロピー変化が存在する。
図:ホログラフィックスクリーンへの粒子の接近
※コンプトン波長:粒子の質量を長さとして表した物理定数。
※電子のコンプトン波長: λe=2.42×10-12 m
(2)エントロピー力
どのように力が出現するのか?
力が働くと加速度が生じるが、それは温度とエントロピーとして観測される。
FΔx=T∆S (熱力学第1法則)
(3)ホログラフィック原理
ここでスクリーンが球面とすると、ホログラフィック原理( holographic principle)により、スクリーン内の状態数(情報量:N)は面積に比例する。
※球面ホログラフィックスクリーン
A:球の表面積
c は光速、ℏ は Planck 定数
※ホログラフィック原理:空間の情報はその境界面に符号化されていると見なすことができるという超弦理論の分野で発見された考え方。
・例えば、ブラックホールのエントロピーはその表面積に比例する。
・ホログラフィック原理は 「量子もつれ(量子エンタングルメント)」という量子論の基本的な性質と深く関係している。
(4)エネルギーと状態数(情報量)
・この球面ホログラフィックスクリーン内に総エネルギーEが存在すると仮定する。
・また、エネルギーが境界内の状態数N(ビット)に均等に分割される(エネルギー等分配則という仮定をすると、
エネルギーEは、質量Mがmより十分大きい場合、質量Mに比例する。
T は絶対温度
※仮に厳密にエネルギー等分配則に従わなくてもこの関係は真実の可能性がある。
(1)から(4)の式を解くと、ニュートンの法則を得る。
○この論文の結果は、時空間が出現すると、エントロピー力として重力が生じることを示唆している。
The results of this paper suggest gravity arises as an entropic force, once space and time themselves have emerged.
○また、加速と重力の等価原理も成り立つ。つまり、加速と重力の両方が創発現象である。
○さらに、ニュートンの法則を一般化したアインシュタイン方程式を得ることが出来る。[5]
○結 論
・重力は基本的な力ではない。時空間が出現すると、エントロピー力として重力が生じる。
・なお、赤方偏移がエントロピー勾配から生じるという考えは、多くの新しい洞察につながる可能性がある。
【参 照】
1.エントロピック重力-Wikipedia
2.“ダークマター存在せず? - 「エントロピック重力理論」と観測データが一致2-“荒井聡
at マイナビニュース 2016/12/22
http://news.mynavi.jp/news/2016/12/22/230/
3.Entropic gravity-Wikipedia
4.Erik Verlinde “On the Origin of Gravity and the Laws of Newton(重力の起源とニュートンの法則)“ 20100106
https://arxiv.org/pdf/1001.0785.pdf
5.T. Jacobson, \Thermodynamics of space-time: The Einstein equation of state,"
Phys. Rev. Lett. 75, 1260 (1995)
【その他の参照】
6.太田 信義“重力理論と熱力学”2010
https://www.jstage.jst.go.jp/article/soken/118/3/118_KJ00006772515/_article/-char/ja/
7.百武慶文“重力は基本的な力か!? E. Verlindeの仕事の紹介”
http://www-tap.scphys.kyoto-u.ac.jp/sc3/hyakutake.pdf
8. Masahiro Hotta”エントロピック重力理論” at Quantum Universe 20161225
http://mhotta.hatenablog.com/entry/2016/12/25/092822
【更新履歴】
20171111 新規
20171209 「熱力学とニュートンの法則」の追加
0 件のコメント:
コメントを投稿